安全研修
~農業に関する労働法の基礎~

農業で人を雇う場合、個人経営か法人経営かにかかわらず、原則として労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働契約法、労災保険法、雇用保険法などの労働関係法令が関係します。ただし、農業は天候、季節、生育状況など自然条件の影響を強く受けるため、労働基準法上、労働時間・休憩・休日について一部の特例があります。

1. 農業にも適用される主な労働法

  • 労働基準法:労働条件の最低基準、賃金、年次有給休暇、解雇、就業規則などを定めます。
  • 最低賃金法:都道府県ごとの最低賃金を下回る賃金は認められません。農業にも適用されます。
  • 労働安全衛生法:作業中の事故防止、健康管理、労働時間の状況把握、熱中症対策などに関係します。
  • 労働契約法:使用者の安全配慮義務や、労働契約の基本ルールを定めます。
  • 労災保険法・雇用保険法:業務上災害、失業、雇用継続に関する保険制度です。

2. 農業における労働時間・休憩・休日の特例

労働基準法第41条により、農業、畜産業、養蚕業、水産業など一定の事業に従事する労働者については、労働時間・休憩・休日に関する規定が一部適用除外とされています。そのため、一般的な「1日8時間・週40時間」や「週1日の休日」といった規制は、農業ではそのまま適用されない場合があります。

ただし、これは「長時間労働を無制限にさせてよい」という意味ではありません。使用者には、労働者の生命・身体・健康を守る安全配慮義務があり、過重労働、熱中症、農機具事故、農薬ばく露などを防ぐための管理が必要です。


3. 適用除外にならない重要なルール

  • 最低賃金:時給制、日給制、月給制のいずれでも、時間額に換算して最低賃金以上である必要があります。
  • 深夜労働の割増賃金:午後10時から午前5時までの深夜労働には、原則として深夜割増賃金が必要です。
  • 年次有給休暇:一定の要件を満たす労働者には、有給休暇を付与する必要があります。
  • 労働条件の明示:雇用時には、賃金、契約期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休日、休暇などを明示する必要があります。
  • 解雇・退職のルール:解雇予告、解雇理由、退職手続きなどのルールは農業でも重要です。

4. 雇用時に整備すべき書類

  • 労働条件通知書または雇用契約書:賃金、労働時間、休日、契約期間などを明記します。
  • 労働者名簿:氏名、生年月日、住所、雇入年月日、業務内容などを記録します。
  • 賃金台帳:労働日数、労働時間、賃金、控除額などを記録します。
  • 出勤簿・タイムカード等:始業・終業時刻を把握し、健康管理や賃金計算の基礎にします。
  • 就業規則:常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成・届出が必要です。

5. 安全衛生上の注意点

農業では、農業機械、刈払機、チェーンソー、農薬、暑熱環境、重量物運搬、高所作業、家畜の取扱いなど、他業種とは異なる危険が多くあります。安全衛生管理では、単に「注意する」だけでなく、作業前の危険確認、作業手順の標準化、防護具の着用、機械・設備の点検、体調確認、緊急時の連絡体制づくりまでを一体として行うことが重要です。

5.1 熱中症対策

夏季の屋外作業、ハウス内作業、風通しの悪い倉庫内作業では、熱中症のリスクが高くなります。作業前には気温、湿度、暑さ指数(WBGT)、作業時間、作業強度を確認し、必要に応じて作業時間の短縮、作業時間帯の変更、休憩回数の増加を行います。特に高温多湿の日は、早朝や夕方に作業を分散し、単独作業を避けることが望まれます。

  • のどが渇く前に水分・塩分を補給できるよう、飲料、経口補水液、塩分補給品を現場に用意する。
  • 日陰、冷房のある休憩場所、送風機、遮光ネットなどを確保する。
  • めまい、吐き気、頭痛、異常な発汗、汗が出ない、判断力の低下などの症状を周知する。
  • 体調不良者を発見した場合は、直ちに作業を中止し、涼しい場所へ移動させ、身体を冷却し、必要に応じて救急要請する。
  • 責任者、連絡先、搬送先医療機関を事前に決め、従業員全員に周知する。

5.2 農業機械・車両の安全

トラクター、コンバイン、田植機、運搬車、フォークリフト等を使用する場合は、転倒・転落、巻き込まれ、挟まれ、接触事故の防止が重要です。作業前点検を行い、ブレーキ、ライト、警報装置、安全カバー、油圧部、タイヤ、作業機との接続部を確認します。斜面、あぜ道、ぬかるみ、路肩、段差では速度を落とし、無理な旋回や急発進・急停止を避けます。

  • 乗用型機械ではシートベルトを着用し、安全フレームや安全キャブを適切に使用する。
  • 点検、清掃、詰まり除去、作業機の調整を行うときは、必ずエンジンを停止し、可動部が完全に止まってから作業する。
  • 作業機の下に入る場合は、油圧だけに頼らず、確実な支持具を使用する。
  • 公道走行時は灯火、反射材、低速車マーク、積載状態、運転資格を確認する。
  • 未経験者には、実機操作の前に取扱説明書、安全装置、緊急停止方法を教育する。

5.3 刈払機・チェーンソー等の手持ち機械

刈払機やチェーンソーは、飛散物、キックバック、切創、転倒、周囲作業者との接触による事故が起こりやすい機械です。使用前には刃、飛散防護カバー、肩掛けバンド、ハンドル、緊急離脱装置、燃料漏れの有無を確認します。作業者同士の距離を十分に確保し、斜面や足場の悪い場所では姿勢を安定させて作業します。

  • ヘルメット、保護メガネまたはフェイスシールド、防振手袋、安全靴、すね当て、耳栓等を作業内容に応じて着用する。
  • 刈払機の刃に絡まった草や異物を取り除くときは、必ずエンジンを停止する。
  • 石、空き缶、針金などの飛散物になり得るものを作業前に除去する。
  • チェーンソーではキックバックが起こりやすい位置での切断を避け、無理な姿勢で作業しない。

5.4 農薬・化学物質の取扱い

農薬を使用する場合は、ラベル表示、使用基準、希釈倍率、使用時期、使用回数、保護具、保管方法を確認し、誤使用やばく露を防ぎます。散布時は風向き、周囲の作業者、近隣住宅、学校、畜舎、水路への飛散に注意し、体調が悪いときや強風時の作業は避けます。

  • 防除衣、保護メガネ、防毒マスク、ゴム手袋、長靴など、農薬の種類に応じた保護具を使用する。
  • 散布後は手洗い、うがい、洗顔、着替えを行い、汚染された衣類は他の衣類と分けて洗う。
  • 農薬は食品、飲料、飼料と区別し、施錠できる場所に保管する。
  • 空容器や残液は、表示や自治体・関係機関のルールに従って適切に処理する。
  • 誤飲、皮膚付着、吸入などが疑われる場合に備え、農薬名、成分、使用量を記録しておく。

5.5 重量物運搬・高所作業・作業環境

収穫物、肥料、資材、コンテナ等の運搬では、腰痛や転倒を防ぐため、重量を分散し、台車、リフト、運搬車などを活用します。脚立、はしご、果樹棚、屋根、サイロ等での高所作業では、転落防止が最優先です。足場の安定、開き止め、滑り止め、周囲の整理整頓を確認し、無理な姿勢や片手作業を避けます。

  • 重い物は一人で無理に持たず、複数人で持つか機械を使用する。
  • 通路、作業場、倉庫内の段差、ぬかるみ、散乱物をなくし、転倒しにくい環境を整える。
  • 脚立は平坦で安定した場所に設置し、天板に乗らない。
  • 夜間・早朝作業では照明、反射材、合図方法を確保する。
  • ハウス内では換気、温度管理、酸欠・一酸化炭素中毒、燃焼機器の使用にも注意する。

5.6 安全衛生教育・記録・緊急時対応

安全衛生対策は、日々の教育と記録によって定着します。雇入れ時や作業内容を変更したときは、作業手順、危険箇所、使用機械、保護具、緊急停止方法、事故時の報告方法を説明します。外国人労働者や短期アルバイトには、母国語資料、写真、動画、実演を活用し、理解できているかを確認することが重要です。

  • 作業前ミーティングで、その日の危険箇所、天候、体調、役割分担を確認する。
  • ヒヤリ・ハット、軽微なけが、機械の不具合を記録し、再発防止策を共有する。
  • 救急箱、AEDの場所、緊急連絡先、最寄りの医療機関、圃場の所在地を一覧化する。
  • 単独作業を避けられない場合は、定時連絡、位置情報共有、携帯電話の携行などの方法を決める。
  • 事故発生時は、二次災害を防ぎながら救助し、必要に応じて労災保険の手続きや関係機関への報告を行う。

5.7 安全衛生上必要な教育・資格・指導者

農業で労働者に危険又は有害な作業を行わせる場合、作業内容に応じて雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、技能講習、免許、通達に基づく安全衛生教育などが必要又は推奨されます。教育は「一度説明した」で終わらせず、対象者、実施日、内容、講師、修了証の写し等を記録し、現場で実際に安全な作業ができているかを確認することが重要です。

区分対象となる作業・場面必要な教育・資格等指導者・講師の考え方
雇入れ時・作業変更時新たに雇用した労働者、短期アルバイト、外国人労働者、作業内容が変わる労働者労働安全衛生法に基づく安全衛生教育。機械・原材料の危険性、保護具、作業手順、点検、疾病予防、整理整頓、応急措置・退避等を教育する。事業者、農場責任者、安全衛生担当者など、作業内容と危険性を理解している者が実施する。必要に応じて外部講師や公的教材を活用する。
刈払機作業畦畔、法面、圃場周辺、施設周辺の草刈り作業刈払機取扱作業者安全衛生教育。通達に基づく教育で、刈払機の知識、作業方法、点検整備、振動障害予防、関係法令、実技を含める。労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント、安全衛生団体の講師、又は刈払機作業と教育内容について十分な知識・経験を有する者が望ましい。
チェーンソー作業立木の伐木、かかり木処理、造材等をチェーンソーで行う作業チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育。業務に就かせる前に特別教育の修了が必要。特別教育の科目について十分な知識・経験を有する者、登録教習機関、安全衛生団体等の講師を活用する。教育記録を保存する。
フォークリフト農産物、資材、肥料、パレット等をフォークリフトで運搬する作業最大荷重1トン以上はフォークリフト運転技能講習、1トン未満は特別教育が必要。公道走行には別途道路交通法上の免許確認が必要。登録教習機関の技能講習修了者を運転者に配置する。社内では有資格者又は安全管理担当者が日常点検・構内ルールを指導する。
小型移動式クレーン・玉掛け肥料袋、資材、機械部品、コンテナ等をクレーンでつり上げる作業つり上げ荷重1トン以上5トン未満の小型移動式クレーンは技能講習、1トン未満は特別教育。玉掛けは1トン以上で技能講習、1トン未満で特別教育。技能講習修了者又は特別教育修了者を作業に従事させる。合図者、玉掛け者、運転者の役割分担を明確にし、現場責任者が確認する。
高所作業車・高所作業果樹、ハウス、倉庫、施設設備の高所作業車使用作業作業床の高さ10メートル以上は高所作業車運転技能講習、10メートル未満は特別教育が必要。脚立・はしご作業でも転落防止教育を行う。技能講習又は特別教育修了者を配置し、墜落防止措置、作業範囲、誘導、天候判断を現場責任者が指導する。
農薬・化学物質農薬散布、燻蒸、洗浄剤・燃料・消毒剤等の取扱いラベル、SDS、保護具、希釈、散布方法、保管、漏えい・ばく露時対応に関する教育。リスクアセスメント対象物を扱う場合は化学物質管理の教育も必要。農薬管理者、作業責任者、化学物質管理者又は外部専門家が、SDSと現場作業に即して指導する。保護具着用管理責任者の選任が必要となる場合がある。
酸素欠乏・一酸化炭素等サイロ、タンク、密閉施設、換気不十分なハウス、燃焼機器使用場所酸素欠乏危険場所での作業に該当する場合は特別教育や作業主任者の選任が必要となる場合がある。換気、測定、退避、救急対応を教育する。該当作業では酸素欠乏危険作業主任者等の有資格者又は十分な知識を有する者が作業を管理する。
職長・現場リーダー複数人作業、繁忙期の応援作業、外国人・短期雇用者を指導する立場職長等教育、安全衛生推進者養成講習等の受講が望ましい。危険予知、作業手順、指示、異常時対応、ヒヤリ・ハット共有を行う。現場リーダーは、法令上の資格の有無だけでなく、作業経験、教育記録、コミュニケーション能力を踏まえて選任する。

なお、上表は農業で発生しやすい作業を中心に整理したものです。実際に必要となる教育・資格は、使用する機械の能力、つり上げ荷重、作業床の高さ、作業場所、取り扱う化学物質、雇用形態等によって異なります。新しい機械や作業方法を導入する場合は、取扱説明書、SDS、登録教習機関、労働基準監督署、労働局、関係団体の情報を確認します。

  • 教育記録の管理:受講者名、教育日、教育内容、講師名、使用教材、実技の有無、修了証の写しを保存する。
  • 有資格者台帳の整備:フォークリフト、クレーン、玉掛け、高所作業車、チェーンソー等について、修了証・免許の有効性を確認し、配置前に台帳で確認する。
  • 外国人労働者への対応:母国語資料、図解、写真、動画、実演を活用し、理解度を確認する。通訳を介する場合でも、危険箇所と禁止事項は現場で直接確認する。
  • 再教育・反復教育:事故、ヒヤリ・ハット、機械更新、作業手順変更、長期未従事後の再開時には、再教育や実技確認を行う。
  • 外部講習の活用:技能講習や特別教育は、登録教習機関、安全衛生団体、業界団体等の講習を活用すると、修了証管理や教育水準の確保がしやすい。

5.8 使用者が選任・配置すべき資格者・管理者等

農業で労働者を使用する場合、使用者は、単に作業者に資格や教育を受けさせるだけでなく、事業場の規模、作業内容、使用する機械・化学物質、外部業者や個人事業者の有無に応じて、安全衛生管理を担う者を選任・配置する必要があります。法令上の選任義務がない小規模な農場でも、責任者を明確にし、教育、点検、記録、緊急時対応を継続的に管理する体制を整えることが望まれます。

使用者側で確認すべき者・資格等選任・配置が必要又は望ましい場面主な役割今後の改正・注意点
安全衛生推進者又は衛生推進者常時10人以上50人未満の労働者を使用する一定の事業場では、業種に応じて選任が必要となる。農業でも、実態に応じて安全衛生を担当する者を置くことが望ましい。安全衛生教育、健康診断、作業環境、労働災害防止、記録管理、改善提案などを担当する。小規模事業場でも熱中症、農薬、機械災害、メンタルヘルス等の対応が増えているため、法定義務の有無にかかわらず担当者を明確化する。
衛生管理者常時50人以上の労働者を使用する事業場では、業種・規模に応じて選任が必要となる。健康診断、作業環境管理、衛生教育、健康障害防止、職場巡視などを行う。将来、ストレスチェック義務化や化学物質管理の強化により、衛生管理体制の重要性が高まる。
産業医常時50人以上の労働者を使用する事業場では選任が必要。50人未満でも、健康相談や高ストレス者対応、長時間労働者対応のため外部医師・地域産業保健センター等の活用が望ましい。健康診断結果への意見、面接指導、作業環境・作業管理への助言、職場巡視、メンタルヘルス対応を行う。令和10年4月1日から、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されるため、小規模農場でも医師面接や相談体制の準備が必要となる。
化学物質管理者リスクアセスメント対象物を製造、取り扱い、又は譲渡提供する事業場で選任が必要。農薬、消毒剤、洗浄剤、燃料等が対象となる可能性がある。SDS・ラベル確認、リスクアセスメント、ばく露低減措置、保護具選定、記録、労働者への周知・教育を管理する。対象物質は段階的に拡大されている。農薬や資材の成分を棚卸しし、SDSの入手・更新確認を行う。
保護具着用管理責任者リスクアセスメント対象物を扱う事業場で、保護具を使用させる場合などに選任が必要。防毒マスク、防じんマスク、保護手袋、保護メガネ、防除衣等の選定、着用指導、保守管理、交換時期管理を行う。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する必要がある。農薬散布や薬剤洗浄作業では該当の有無を確認する。
作業主任者酸素欠乏危険作業、有機溶剤、特定化学物質、鉛、石綿等、法令で定める危険・有害作業に該当する場合に選任が必要。作業方法の決定、換気、保護具使用、立入禁止、点検、作業者への指揮を行う。サイロ、タンク、密閉施設、燻蒸、薬剤使用、改修工事等では該当作業がないか事前確認する。
特定機械・車両等の有資格運転者フォークリフト、クレーン、玉掛け、高所作業車、不整地運搬車等を使用する場合、能力・荷重・高さに応じて技能講習修了者、特別教育修了者、免許保持者を配置する。資格要件を満たす者のみを運転・操作に従事させ、点検、合図、作業計画、立入禁止を管理する。令和8年以降、技能講習の不正防止や機械検査制度の見直しが進んでいるため、修了証の真正性、有効な講習機関、機械の検査記録を確認する。
熱中症対策責任者又は現場責任者WBGT28度以上又は気温31度以上の環境で、連続1時間以上又は1日4時間を超える作業が見込まれる場合など、熱中症リスクが高い作業。報告体制、重篤化防止手順、休憩・水分塩分補給、作業中止判断、救急搬送、関係作業者への周知を行う。令和7年6月1日から職場の熱中症対策が強化されており、農作業では特に該当しやすい。
元方・作業場所管理責任者複数の事業者、請負人、一人親方、家族従事者、外部業者が同じ場所で作業する場合。危険箇所、立入禁止、作業手順、連絡調整、退避、保護具、機械使用ルールを作業従事者全体に周知する。令和8年以降、個人事業者等を含む安全衛生対策が段階的に強化される。雇用関係の有無だけで対象外と判断しない。
ストレスチェック実施体制の担当者当面は50人以上の事業場が義務対象だが、令和10年4月1日から50人未満の事業場にも義務化。実施者・実施事務従事者の確保、外部委託、個人情報管理、高ストレス者への医師面接、職場環境改善を調整する。小規模農場でも、繁忙期、住み込み、外国人労働者、家族経営の人間関係などを踏まえ、早めに相談体制を準備する。

使用者は、上記の資格者・管理者を形式的に置くだけでなく、実際に権限と時間を与え、現場で機能する体制にする必要があります。特に農業では、繁忙期に短期雇用者や外部応援者が増えるため、誰が安全指示を出すのか、誰が作業を中止できるのか、誰が救急要請や家族・関係機関への連絡を行うのかを事前に決めておくことが重要です。

  • 年1回以上の確認:労働者数、使用機械、農薬・薬剤、請負・外注の有無を確認し、必要な資格者・管理者を見直す。
  • 資格証・修了証の確認:技能講習、特別教育、免許、管理者教育の修了証を写しで保管し、有資格者台帳に記録する。
  • 兼任の可否確認:小規模事業場では兼任が多くなるが、法令上兼任できない場合や、実務上職務を果たせない場合があるため注意する。
  • 改正予定の管理:熱中症対策、化学物質管理、個人事業者等への保護措置、ストレスチェック義務化は段階的に変わるため、毎年、公的資料で最新情報を確認する。
  • 農業特有の体制整備:圃場ごとの責任者、単独作業時の連絡方法、外国人労働者への多言語説明、家族従事者・請負人への安全ルール共有を行う。

5.9 今後・近年の法改正への対応

安全衛生分野では、近年、熱中症対策、化学物質管理、個人事業者等の保護、メンタルヘルス対策などについて法改正や段階的な施行が進んでいます。農業でも、労働者を雇用する農業者や農業法人は対象となる場合があるため、施行時期と実務対応を確認しておく必要があります。

  • 職場の熱中症対策の強化:令和7年6月1日から、一定の暑熱環境下で継続して行われる作業について、事業者に「報告体制の整備」「重篤化防止の実施手順の作成」「関係作業者への周知」が義務付けられました。農作業では、WBGT28度以上又は気温31度以上の環境で、連続1時間以上又は1日4時間を超える作業が見込まれる場合に該当し得ます。
  • 化学物質管理の強化:農薬、洗浄剤、燃料、消毒剤など化学物質を扱う場合、ラベル表示やSDS、安全データシートの確認、リスクアセスメント、保護具の選定、ばく露防止措置がより重要になります。対象物質は段階的に拡大されているため、使用している資材が対象に含まれるかを定期的に確認します。
  • 個人ばく露測定等への対応:有害物質を取り扱う作業では、今後、個人ばく露測定が作業環境測定の一方法として位置づけられるなど、ばく露実態の把握が重視されます。農業では農薬散布、燻蒸、密閉空間での薬剤使用など、ばく露リスクの高い作業について、作業方法、換気、保護具、記録の整備を見直します。
  • 個人事業者・請負人等への保護措置:同じ作業場所で働く一人親方、請負人、外部業者、家族従事者等についても、危険箇所、立入禁止、保護具、退避方法などを周知し、安全確保を図る必要性が高まっています。共同作業や繁忙期の応援作業では、雇用関係の有無にかかわらず、現場全体で安全ルールを共有します。
  • ストレスチェック等のメンタルヘルス対策:令和10年4月1日から、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。農業では季節的な繁忙、長時間作業、住み込み・家族経営特有の人間関係、外国人労働者の孤立なども負担になり得るため、相談窓口、面談機会、労働時間・休養の管理を整えておくことが望まれます。

実務上は、毎年の作業開始前や繁忙期前に、最新の法令、厚生労働省・農林水産省・労働局等の公表資料、使用資材のSDS、保険加入状況、教育記録を確認し、現場の安全衛生ルールを更新することが重要です。


6. 外国人労働者を雇用する場合

外国人を農業分野で雇用する場合は、在留資格、就労可能な業務内容、雇用契約、支援体制、労働条件の明示、社会保険・労働保険、安全衛生教育などを確認する必要があります。技能実習、特定技能、育成就労制度などは制度変更や運用要件があるため、最新の公的情報を確認することが重要です。


7. 実務チェックリスト

  • 雇用開始前に労働条件通知書または雇用契約書を交付しているか。
  • 最低賃金を下回っていないか、月給制の場合も時間額換算で確認しているか。
  • 出勤簿やタイムカードで始業・終業時刻を記録しているか。
  • 長時間労働や連続勤務を避け、休憩・休日を実務上確保しているか。
  • 熱中症、農機具事故、農薬使用に関する安全教育を実施しているか。
  • 労災保険・雇用保険・社会保険の加入要件を確認しているか。
  • 外国人を雇用する場合、在留資格と就労範囲を確認しているか。
  • 常時10人以上を雇用する場合、就業規則を作成し、届出・周知しているか。

8. 令和7年5月改正:作業従事役員等・個人事業者等への安全衛生法の適用拡大

令和7年5月14日に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)が公布されました。この改正では、これまで主に「労働者」を中心に設計されていた労働安全衛生法の保護対象について、労働者と同じ場所で作業する個人事業者、請負人、一人親方、家族従事者、作業に従事する役員等にも一定の範囲で広げる方向が示されています。

農業では、法人の役員が現場作業を行う場合、個人農家同士が共同作業を行う場合、繁忙期に外部の個人事業者や請負人が圃場に入る場合、家族従事者と雇用労働者が同じ場所で作業する場合などがあり、今回の改正の考え方と関係する場面が多くあります。

8.1 改正の趣旨

改正の背景には、少子高齢化、人手不足、働き方の多様化により、雇用労働者だけでなく、個人事業者、請負人、役員、家族従事者などが同じ作業場所で一体となって働く場面が増えていることがあります。同じ場所で同じ危険にさらされる以上、雇用契約の有無だけで安全衛生上の保護を大きく分けるのではなく、現場にいる作業従事者全体を対象として災害防止を図ることが重要とされています。

8.2 対象となり得る人

  • 作業従事役員等:法人の代表者、役員、役員に準じる立場の者で、労働者と同じ場所で実際に作業に従事する者。
  • 個人事業者・一人親方:労働者を使用せずに自ら事業を行い、圃場、施設、倉庫等で作業を行う者。
  • 請負人・外部業者:農作業、機械整備、施設修繕、収穫・出荷作業等を請け負って現場に入る者。
  • 家族従事者:雇用労働者ではないが、同じ圃場や施設で農作業に従事する家族。
  • 共同作業者:地域の共同防除、共同収穫、農業機械の共同利用、共同出荷作業などに参加する者。

8.3 農業で想定される具体例

場面想定される作業従事者必要となる対応
法人の代表者・役員が労働者と一緒に収穫作業を行う雇用労働者、代表者、役員、家族従事者熱中症対策、作業手順、保護具、休憩、緊急連絡体制を全員に周知する。
個人農家同士で共同防除を行う個人事業者、補助者、近隣農家、雇用労働者農薬ラベル・SDS、風向き、立入禁止、保護具、洗浄・保管方法を共有する。
外部業者がハウス修繕や機械整備を行う請負業者、農場従業員、農場管理者作業場所、電源・燃料、立入禁止、脚立・高所作業、火気使用、緊急時対応を事前調整する。
繁忙期に個人事業者や短期応援者が圃場に入る請負人、短期雇用者、家族従事者、農場従業員圃場ごとの危険箇所、農業機械の通行経路、休憩場所、救急連絡先、単独作業禁止ルールを共有する。
共同利用のトラクター、フォークリフト、高所作業車を使用する機械使用者、補助者、周辺作業者資格・教育、点検、合図、立入禁止、転倒・接触防止、鍵管理、使用記録を確認する。

8.4 使用者・作業場所管理者が行うべき対応

  • 作業場所に入る人を把握する:労働者だけでなく、役員、家族従事者、請負人、外部業者、個人事業者を含め、誰がどの作業を行うかを事前に確認する。
  • 危険情報を共有する:圃場の段差、用水路、ぬかるみ、農薬散布予定、機械の通行ルート、ハウス内の高温、電気・燃料設備などを全作業従事者に周知する。
  • 作業間の連絡調整を行う:同じ場所で複数の作業が重なる場合は、作業時間、作業範囲、立入禁止区域、合図方法、緊急停止方法を調整する。
  • 保護具と安全装置を確認する:ヘルメット、保護メガネ、防毒マスク、手袋、安全靴、刈払機の飛散防護カバー、機械の安全装置などを確認する。
  • 教育・資格の確認を行う:フォークリフト、クレーン、玉掛け、高所作業車、チェーンソー、刈払機、農薬取扱い等について、必要な資格・講習・教育の有無を確認する。
  • 事故・ヒヤリハットを共有する:労働者だけでなく、作業従事役員等や請負人に関する事故・ヒヤリハットも記録し、再発防止策を共有する。

8.5 施行時期と確認事項

時期主な内容農業現場での確認事項
令和7年5月14日改正法公布。一部規定は公布日から施行。仕事を他人に請け負わせる場合、作業方法、納期、工程等が安全衛生を損なう内容になっていないか確認する。
令和8年4月1日以降個人事業者等への安全衛生対策、元方事業者・作業場所管理事業者の措置などが段階的に施行。同じ場所で働く労働者以外の作業従事者も含め、連絡調整、立入禁止、危険情報の共有、保護具、退避方法を整備する。
令和9年以降個人事業者等の業務上災害報告、安全衛生教育等に関する規定が段階的に整備・施行される予定。外部の個人事業者、請負人、家族従事者、役員等に関する事故報告、教育記録、作業記録の管理方法を見直す。

8.6 実務チェックリスト

  • 労働者以外に、役員、家族従事者、請負人、個人事業者、外部業者が同じ場所で作業していないか。
  • 作業場所ごとに、誰が安全管理・連絡調整の責任者か明確になっているか。
  • 作業前ミーティングに、労働者以外の作業従事者も参加しているか。
  • 農薬散布、機械作業、高所作業、ハウス内作業など、危険作業の範囲と立入禁止区域を全員に周知しているか。
  • 請負契約や作業依頼の内容が、無理な納期、危険な作業方法、休憩を取れない工程になっていないか。
  • 役員や家族従事者も、必要な資格・特別教育・安全衛生教育を受けているか。
  • 事故・ヒヤリハットが発生した場合、労働者以外の作業従事者についても記録・共有する仕組みがあるか。
  • 最新の政省令、通達、リーフレットを確認し、施行時期ごとの対応を更新しているか。

この改正は、農業においても「雇用労働者だけを守ればよい」という考え方から、同じ場所で働く全ての作業従事者を対象に、危険情報を共有し、作業間の連絡調整を行い、現場全体で労働災害を防止する考え方へ移行するものです。特に共同作業、請負作業、家族経営、法人役員の現場作業がある農場では、早めに安全衛生体制を見直すことが重要です。


9. 参考資料・出典

本資料は、以下の公的機関等が公表している法令、制度説明、リーフレット、研修資料等を参考に作成しています。法令や制度は改正されることがあるため、実務で使用する際は、最新の法令、告示、通達、労働局・労働基準監督署等の案内を確認してください。

  • e-Gov法令検索:労働基準法、労働安全衛生法、労働安全衛生規則、最低賃金法、労働契約法、労災保険法、雇用保険法等の条文確認。
  • 厚生労働省「安全・衛生」:労働安全衛生法の概要、安全衛生管理体制、安全衛生教育、就業制限、健康診断、化学物質対策、メンタルヘルス対策、個人事業者等の安全衛生対策等。
  • 厚生労働省「労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など」:雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、技能講習、免許、管理者・専門スタッフの選任要件等。
  • 厚生労働省・都道府県労働局の熱中症対策資料:職場における熱中症対策の強化、報告体制、重篤化防止手順、WBGT等を用いた暑熱リスク管理。
  • 厚生労働省「職場における化学物質管理」関連資料:SDS、リスクアセスメント、化学物質管理者、保護具着用管理責任者、ばく露防止措置等。
  • 農林水産省「農作業安全対策」:農作業死亡事故、農業機械事故、農作業安全研修、啓発資料、農業機械の安全性、農作業安全確認運動等。
  • 農林水産省「熱中症対策」:農作業における熱中症対策研修テキスト、熱中症対策パンフレット、熱中症特別警戒情報発表時の対応、外国語版資料等。
  • 農研機構「農作業安全情報センター」:農業機械別・作業別の安全ポイント、事故事例、農機安全eラーニング、農作業安全の啓発情報等。
  • 中央労働災害防止協会:安全衛生教育、就業制限業務、特別教育、作業主任者等に関する一覧資料や教育情報。
  • 厚生労働省「外国人の雇用」:外国人雇用管理指針、在留資格の確認、外国人雇用状況届出、外国人労働者の労働条件・安全衛生確保等。
  • 農林水産省「農業分野における外国人材の受入れ」:農業分野の特定技能、技能実習、育成就労制度、外国人向け農作業安全教材等。
  • 出入国在留管理庁・外国人技能実習機構:特定技能制度、技能実習制度、育成就労制度、在留手続、受入れ・支援体制に関する資料。

確認時期:令和8年7月時点。最新情報は、厚生労働省、農林水産省、e-Gov法令検索、都道府県労働局、労働基準監督署、出入国在留管理庁、外国人技能実習機構等の公式情報で確認してください。

「本コンテンツの一部(又は全部)は生成AIツールを使用して作成しました。」